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<事案> 本件は、原告オウブンシャホールディング社(以下「OH」という)が100%出資してオランダに設立した外国子会社であるオウブンシャアトランティック社(以下「OA」という)の株主総会において、OHのオランダにおける関連会社であるアスカファンド社(以下「AF」という)に著しく有利な価額で第三者割当増資する決議を行い、OH保有のOA株式の資産価値を何らの対価も得ずにAFに移転させたとして、被告本郷税務署長(以下「原処分庁」という)が、その移転した資産価値相当額をAFに対する寄附金と認定し、OHの平成6年10月1日から平成7年9月30日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたところ、OHが、本件更正処分のうち納付すべき税額2億6494万2300円を超える部分及び本件賦課決定処分はいずれも違法であるとしてその取消しを求めた事案である。
<事実の概要> OHは、財団法人センチュリー文化財団(以下「財団」という)、日本英語教育協会等を主要株主とする法人税法(以下「法法」という。)2条10号所定の同族会社に該当する法人であり、OHは、平成3年9月4日、オランダにOHの100パーセント出資の子会杜としてOAを設立した。出資総額に対し発行株式は200株であり、額面総額を超える出資額は全額資本準備金として処理された。OHは、平成10年改正前の法法51条に基づき、帳簿価額により株式を現物出資し、発行株式の額面超過額を圧縮記帳した。 財団は、平成7年2月13日、オランダに100%子会社であるAFを設立した。又、センチュリー文化財団は、平成7年2月15日当時、OHの発行済株式の49.6%を保有する筆頭株主であった。 OHは、平成7年2月13日のOAの株主総会において、OAが新株3000株(以下「本件増資新株」という。)を発行し、その全部を、ほぼ額面金額でAFに割り当てる旨の決議をした(以下「本件決議」といい、本件決議に係る増資を「本件増資」という。)。 AFは、平成7年2月15日、本件増資の払込をし、OAは本件増資新株をAFに割り当てた。これにより、OHのOA株式の保有割合は、従前の100%から6.25%となり、AF社が93.75%の割合でOA株式を保有することとなった。 原処分庁は、本件決議当時におけるOA社株式の資産価値が1株当たり約1億3650万円であったのに、OHが、その価値を著しく下回る価額で3000株もの新株をAFに発行する本件決議をすることにより、OHが保有していたOA株式の資産価値約273億円を一挙に約17億円まで減少させ、その差額である約256億円相当額を、何らの対価も得ずにAFに移転させたものと認め、当該行為は営利を目的とする法人の行為としては不自然・不合理であり、法人税の負担を不当に減少させる行為であるとして法法132条を適用し、上記資産価値の移転をAFに対する寄附金と認め、OHに対し本件更正処分及び本件賦課決定処分(以下「本件処分」という)をした。
<訴訟の経過> 本件処分は法法132条を適用したものであることから、当初は同条適用の適法性等が争われた。ところが、原処分庁は、最終口頭弁論期日において、新たに法法22条2項の適用を主位的主張として主張し、従前の法法132条の適用を予備的主張として主張した。これに対し、OHは、民訴法157条1項により却下されるべき旨主張する他、法法22条2項によっても本件処分は違法であると主張した。
<判決> 判決は、<1>法法22条2項に基づく主張が時機に遅れたものとして却下されるべきか、<2>法法22条2項適用の適法性、<3>法法132条適用の適法性、<4>法法51条の適用範囲について判断した。 1. まず<1>の判事事項について、判決は、民訴法157条1項の「攻撃又は防御の方法」には法律上の陳述も含まれるとした上で、審理の経過からして、時機に遅れたものとの嫌いは否めず、処分後2年半余り経過後に主位的主張自体を全く新たな主張に変更したことは原処分庁の職責に惇る旨判示する一方、<1>当該主張は裁判所の原処分庁に対する求釈明を契機として主張されたものであること、<2>基礎となる事実関係については従前の主張に包含されるものであって法律構成に関する新たな主張であること、<3>新たな証拠調べを必要とするものではなかったこと、<4>これに対してOHが速やかに対応したことによって、OH代理人らに多大の負担をかけたことはともかくとして、本件訴訟の進行を遅延させるには至らなかったことからすれば、時機に遅れた攻撃防御方法とは認められない、とした。 即ち、判決は、明言はしていないが、民訴法157条1項の適用要件である<1>故意又は重過失により時機に遅れて攻撃防御方法を提出すること、<2>それにより訴訟の完結を遅延させることのうち、本件では<1>の要件が認められるものの、OH代理人らの速やかな対応により、結果的に<2>の要件が認められないものとして、OHの主張を認めなかった。 しかし、判決によれば、相手方の速やかな対応により、かえって同条の適用要件が欠ける結果となる可能性がある点は、相手方の負担を軽減させるという同条の趣旨との関係で問題が生じよう。 2. 次に<2>の判事事項について、本件のように有利な価額による第三者割当増資において、増資会社の完全親会社であった旧株主が株主総会決議で賛成したことが、資産の無償譲渡に当たるかどうかに関して裁判例はなく、課税の可否が問題となった。 原処分庁は、本件決議が、本件増資によるOH保有のOA株式の資産価値がAFに移転した原因行為であるとし、OHが本件決議に参加した行為を贈与行為と認定した上、これにより当該資産価値が時価により実現したものとして益金と構成し、OHから社外流出した限度において、無償取引に係る収益として課税の対象となると主張した。 判決は、本件増資が、<1>OA自体による本件増資の実行行為と、<2>それに応じたAFのOAに対する払込行為により構成されるとした上で、本件決議はOAの内部的な意思決定行為に過ぎず、本件増資による上記利益移転を取引的行為として捉えるとすれば、それはOAとAFの間の行為であり、OHの行為とは認められない、として原処分庁の主張を斥けた。 本件における法法22条2項の適用の可否に関しては、新株引受権を失権した旧株主による増資会社に対する第三者指名権の行使により、旧株式の含み益に係る経済的利益が旧株主から新株主に譲渡されたものとした最高裁昭和41年6月24日第2小法廷判決(民集20巻5号1146頁。以下「41年判決」という。)の射程距離が問題となった。 この点、判決は、41年判決は、<1>第三者指名権の行使によって譲渡したものとみるべき具体的利益が存在し、<2>一旦旧株主に新株引受権が具体的に帰属し、それが付着した旧株式自体を旧株主が譲渡することが可能であったことに着目して、第三者指名権の行使をそのような譲渡行為と同視したという事案であるのに対し、本件では、<1>OHについては本件決議以前には抽象的な含み益があったのみで、本件決議によって譲渡したとみるに足りる具体的利益は存在せず、<2>OHとAFとの間には直接的な行為があったと同視しうる事情は見当たらないとして、本件と事案を異にするとした。 更に、判決は、原処分庁の主張を前提とすると、親会社のない会社において第三者有利発行の決議が成立した場合にも、少なくとも当該決議に賛成した株主全部について、含み益が顕在化したものとして収益を認定し課税することになり、広きに失するし、実際にもかかる広汎な課税が行われていることは窺われないとして、原処分庁の主張を批判している。 この点の判示は、一般に、第三者有利発行の際に、旧株主から新株主に旧株式の含み益が移転することにつき、法法22条2項の無償譲渡に該当するとして旧株主に課税することはできないとの法理を示したものであり、同条項による課税に一定の限界を設けたものとして注目されよう。 3. <3>の判示事項について、判決は、原処分庁の主張は、OHの行為によりOH保有のOA株式の資産価値がAFに移転したとの事実を前提とするところ、当該資産価値の移転は、OHの行為によるものとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、原処分庁の主張は理由がないと判示した。 ところで、法法132条にいう「法人税の負担を不当に減少させる」同族会社の行為計算の意義については、従来、(イ)同族会社であるが故に容易になし得る行為計算とする見解(東京高判昭40.5.12等)、(ロ)純経済人の行為として不合理・不自然な行為計算とする見解(東京高判昭49.10.29等)があったが、近年、後者(ロ)の見解について、行為計算が経済的合理性を欠いている場合とは、独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引(米国租税法でarm’s length transaction《独立当事者間取引》と呼ばれるもの)と異なっている場合を含むとする見解が有力となってきている(東京高判平4.12.14、同高判平11.5.31、金子宏「租税法第八版」340頁)。 本件において、原処分庁は、同族会社の行為計算の否認に関して、「無償で自己の資産の減少となる本件決議を行い、対価を受領等しなかったOHの行為」が不自然、不合理な行為形態であるとして否認し、「<1>AFから少なくとも滅失価値相当額に見合う対価を受領するか、<2>AFに増資対価を払い込ませる」のが普通採ったであろう行為計算であると認定したものであり、(ロ)の立場を採ったものと解される。 判決は、原処分庁が「普通採ったであろう行為計算」として認定した<1>と<2>の行為計算について、それぞれ現になされた行為計算と比較して、<1>の場合にはOHの法人税を減少させるが、<2>の場合にはそもそもOHには法人税が課されないから、法人税の負担を不当に減少させる余地はないと判示した。又、判決は、OH、OA、AFの3社を通じてみると、現になされた行為の方が法人税の負担を増加する可能性があったのであるから、「普通採ったであろう行為計算」のうちの一つと比較した場合において、何ら法人税を減少させるものではないとして、法法132条適用要件を欠く旨判示した。 ところで、現になされた行為と「普通採ったであろう行為計算」とを比較した場合に、前者による税負担が後者による税負担に比して「不当に」減少することが、同条の適用要件である。本件は、「普通採ったであろう行為計算」が複数想定し得る事案であるが、本判決を敷衍すれば、想定し得る複数の「普通採ったであろう行為計算」のうち、最も税負担の少ない行為計算の課税額以上の法人税額は、そもそも法人税を減少させるものではないと解される。従って、税務署長は、同条の適用に際して「普通採ったであろう行為計算」を認定する場合に、当該「普通採ったであろう行為計算」が複数想定し得るときは、そのような行為計算のうち最も税負担の少ない行為計算を認定しなければならないことになる。逆に、納税者たる同族会社の立場からすれば、「普通採ったであろう行為計算」の範囲内であれば、最も税負担の少ない行為計算を選択し得ることになる。この意味で、本判決は、税務署長の否認権を制限する趣旨に解され、同条の適用に関する税実務に多大な影響を与えるものと思われる。 又、本判決における「普通採ったであろう行為計算」の認定方法に関する上記判示は、当該行為計算と比較して「法人税の負担を不当に減少させる」同族会社の行為計算の認定基準について、税負担の多寡も判断要素として考慮すべき旨を判示したものと評価でき、一定の範囲で租税回避行為を容認する趣旨に解することができる。 なお、本件では、法法132条の違憲性も論点とされたが、従来、同条は、専ら同条の「不当に」という不確定概念について、課税要件明確主義を定める憲法84条との関係で合憲性が議論されてきており(なお、最判昭51.4.21は合憲とする)、憲法14条1項との関係では殆ど議論がされてこなかった。この点、OHは、法法132条は同族会社と非同族会社との間で不公平な税負担を来たすから、憲法14条1項に照らし法令違憲である旨主張し、両社間の税負担の公平を図る趣旨の同条が前提とする立法事実について鋭い指摘がなされているが、本判決がこの点について判示しなかったのは残念である。 4. <4>の判事事項について、判決は、平成10年改正前の法法51条による海外子会社を通じた節税行為について、当時の法人税法上やむを得なかったと判示したが、同条は既に改正され、本件と同様の行為による節税行為は現在は不可能であるから、この点の判示が税実務に与える影響は小さいと考えられる。 5 最後に、判決の結論を導く上では判示を要しないが、OHが主張している<1>原処分の理由不備の有無、及び<2>青色申告法人に対する更正処分に理由附記を要件とする法法130条2項について、当該附記理由を訴訟の段階で他の理由に差し替えることの可否について、本判決では触れられていない。当該<1>、<2>の論点は、税法学上の重要論点であるだけに、傍論にせよ本判決で触れられることが望まれた。欲を言えば、その点が残念である。
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