平成12年(行ウ)第99号 法人税更正処分等取消請求事件

原 告 オウブンシャホールディング株式会社

被 告 本郷税務署長

判決要旨

〔文中の頁数は、判決書の頁数を示すものである。〕

(事案の擬要)

(当事者等関係図)

 本件は、原告が100パーセント出資[注]してオランダに設立した外国子会社であるアトランティック社(OBUNSHA ATLANTIC B.V.)の株主総会において新たに発行する新株全部を原告の外国における関連会社であるアスカファンド社(AS UKA FUND B.V.、現商号はCULTURE COMMUNICATION FUND B.V.)に著しく有利な価額で割り当てる決議を行い、原告が保有していたアトランティシク社株式の資産価値を何らの対価も得ずにアスカファンド社に移転させたとして、被告が、その移転した資産価値相当額をアスカファンド社に対する寄附金と認定し、原告の平成6年10月1日から平成7年9月30甲までの事業年度の法人税の更正処分[注2][注3]及び過少申告加算税の賦課決定処分[注4]をしたところ、原告が、これらの取消しを求めている喜案である。

[注1] 原告の出資内容は、判決書第2、2(2)[5頁]のとおり。原告は、法人税法51条.(ただし、平成10年法律第24号による改正前のもの。外国子会社設立の際の現物出資についても、いわゆる圧縮記帳による課税の繰延べを認めていた。)に基づき、アトランティック社設立のための出資のうち、現物出資(株式)につき、帳簿価額により出資したものとして、発行された株式の額面 を超える部分の出資金額を圧縮記帳した。

[注2]原告の法人税の確定申告の内容は、所得金額0円、納付すべき税額を2億6494万2300円とするもの。

[注3]本件更正処分の内容は、判決書第2、2(9)[7頁〜9頁]のとおり。
   課税所得金額:249億5320万4351円
   納付すべき税額:96億2239万3800円
   更正処分によって新たに納付すべきものとされた税額:93億5745万1500円

[注4] 過少申告加算税の額: 13億8863万2500円。

(争点)

本件の争点は、本件更正処分及び本件賦課決定処分の適法性である。

被告は、本件更正処分の適法性の根拠として、主位的に法人税法22条2項の適用を、予備的に同法132条1項1号の適用を主張する。

原告は、被告の主位的主張が時機に遅れた攻撃防御方法として却下されるべきである旨を主張するほか、仮に被告の上記主張のいずれかが認められる場合につき、被告の主張する課税標準の基礎となる株式め資産価値評価を争い、かつ、過小申告加算税については国税通 則法65条4車にいう「正当な理由」があったと主張した。

(争点に対する判断)

1 争点(1)(被告の主位嘩張が時機に遅れたものとして却下されるぺきか否か)について[9頁〜11頁]

被告の主位的主張は、客観的な時機からして、時機に遅れたものとの嫌いは否めない。しかも、本件処分は、原告の死命を制しかねない重大な処分であるにもかかわらず、既に処分から2年半余りが経過した後に主位 的主張自体を全く新たなものに変更することは、処分前の検討がはなはだ不十分であったことを示すものであって、そのこと自体は被告の職責に惇るものといわざるを得ない。

しかしながら、被告の同主張は、平成13年3月19日の本件第4回口頭弁論期日における当裁判所の被告に対する求釈明を契機として主張されたものであること、同主張り基礎となる事実関係については従前披告が主張していた法人税法132条の適用に関する主張に包含されるもめであること、原告が速やかに対応したことによって、結果 的にみても、本件訴訟の進行を遅延させるには至らなかったことなどの事情にかんがみれば、被告の主位 的主張については、民事訴訟法157条1項が時機に遅れた攻撃防御方法の却下の要件として定める「これにより訴訟の完結を遅延させることとなる」ものとは認められないというべきである。

2 争点(2)(法人税法22条2項の適用)について[11頁かち16貢]

(1) 本件決議はアトランテイック社の機蘭でみる同社の株主総会が内部的な意思決定としてしたものにほかならず、その段階では未だ増資の効果 は生じていないのであって、アスカファンド社が本件増資により資産価値を取得したとすれば、それは、法形式においては、アトランティック社の執行機関が本件決議を受けて同社の行為として増資を実行し、アスカファンド社が新株の引受人として払込行為をしたことによるものである。そうすると、本件増資は、新株の払込を受けたアトランティック社と有利な条件でアトランティック社から新株の発行を受けたアスカファンド社の間の行為にほかならず、原告はアスカファンド社に対して何らの行為もしていないというほかない。

(2) 最高裁庄和41年判決は、本件と事案を異にするものであり、その判示は本件には当てはまらないものというべきである。

(3) 被告の主張は、経済的利益の移転を生ずる「無償供与」としての行為の存在が直接的には認あられず、同行為を擬制するに足りるだけの根拠がないにもかかわらず、あえて無理な擬制をして結論を導いているものといわざるを得ない。

(4) 実質的にみて原告の保有するアトランティツク社株式の資産価値がアスカファンド社に移転し壮しても、それが原告の行為によるもとは認められないから、同資産価値の移転が原告の行為によることを前提としてこれに法人税法22条2項を適用すべきである旨の被告の主位 的主張には理由がない。

3 争点(3)(法人税法132条の適用について)について[16頁〜18頁]

(1) 本件更正処分の理由として法人税法132条を適用すべき旨の被告の主張は、原告自らの行為によりその保有するアトランティック社株式の資産価値がアスカファンド社に移転したとの事実を前提として、同資産価値の移転について同法132条を適用して課税しようとするものである。しかしながら、原告の保有するアトランティック社株式の資産価値がアスカファンド社に移転したことが、原告自らの行為によるものとは認められないことは、上記2に判示のとおりである。従って、被告の同主張については、その余の点について判断するまでもなく理由がないことは明らかである。

(2) また、現にされた行為は、普通 採ったであろう行為計算のうちのひとつと比較した場合において、何ら法人税を減少させるものではないのであるから、他に想定される普通 採ったであろう行為計算との比較いかんにかかわらず、これを容認したとしても法人税の負担を不当に減少させる結果 となるとは認め難く法人税法132条適用の前提条件を欠くものである。

4 まとめ[18頁〜19頁]

(1) 以上によれば、本件更年処分に関する被告の主位 的主張及び予備的主張はいずれも理由がなく、その余の点について判断するまでもなく本件更正処分は違法なものといわざるを得ず、したがって、本件賦課決定処分も違法なものである。

(2) なお、上記の結論によると、もともと原告が保有していた株式に関する多額の含み益については、何らの課税もされない結果 が生ずることとなるが、これは、法人税法51条がその定める特定出資についていわゆる圧縮記帳による課税の繰延べを認め、しかも平成10年改正前には外国法人の設立についても同条の適用が認められていたことに端を発するものである。

 本件のような事態の起こることは、当時の法人税法上やむを得なかったと考えられるのである。

第4 結論[19頁〜20頁]

よって、原告の請求は理由があるからこれを認容する。

なお、原告は本件において相当な分量の準備書面 及び書証を提出しているところ、そのうちには、それらの書記料を被告に負担させることには疑問がないでもないものもある。しかし、本件訴訟は不十分な検討に基づく苛酷な処分を受けた原告がやむを得ずに提起したものというべきものであることなどにかんがみ、特にこれらの書記料もすべて被告に負担させることとした。

参 考

(法令の定め)

(1) 法人資産の無償譲渡に係る収益の益金算入

 法人税法(以下「法」という。)22条1項は、「内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。」と定めるところ、同条2項は、「国内法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別 段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益め額とする」と規定し、法人の無償による資産の譲渡によって利益が実現したと認められる場合には、その収益が益金に参入されることを定めている。

(2) 寄附金課税制度

 法22条3項は、「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別 段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。」とし、その1号において「当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額」.を、2号において「前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般 管理費その他の費用(括弧内省略)の額」を、3号において「当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」をそれぞれ損金の額に算入すべきこととしている。

 そして、法37条1項は、「内国法人が、各事業年度において寄附金を支.出した揚合において、その寄附金の額につきその確定した決算において利益又は剰余金の処分による経理(利益積幸金額をその支出した寄附金に充てる経理を含む。)をしたときは、第3項各号(括弧 内省略)に規定する寄附金の額を除き、その経理をした金額は、その内国法人の各事業年度の所得め金額の計算上、損金の額に算入しない。」と定め、同条2項は、「内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額(前項の規定の適用を受けた寄附金の額を除く。以下省略)の合計額のうち、その内国法人の資本等の金額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額(括弧 内省略)を超える部分の金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」と規定し、法人の金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与の金額(同条6項)が所定の損金参入限度額を超える場合には、その損金算入を否認するという寄附金課税制度を定めている。

(3) 同族会社の行為又は計算の否認

 法132条は、「税務署長は、次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果 となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところによりその法人に、係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。」とし、その1号に芦いて「内国法人である同族会社」を同規定適用の対象としており、法2条10号は、同族会社の意義を「株主等の3人以下並びにこれらと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人が有する株式の総数又は出資の金額の合計額がその会社の発行済株式の総数又は出資金額の100分の50以上に相当する会社をいう。」としている。

以上